憲法・刑法をメイン素材として【論点】を巡る学説を可能な限りシンプルに分析したり、【過去問】の分析などをしてます。 理系からロースクールに入学した女学生・【神渡(カント)さん】と、男性教授・【玄人(クロード)先生】の対話などを主として物語は進みます。 単に学説を分析するだけではなく、その分析結果を過去問や判例の理解にどう活かせるかについても検討する予定です。

【対話】被害者の同意(その4)

玄人:構成要件不該当説と違法性阻却事由説との考え方が分かったものとして次に進もう。
違法性阻却事由説の内部で対立はあるかな?

神渡:「社会的相当性説」、「全面不可罰説」、「生命危険説」、「重傷害説」の対立があります。

玄人:これらの説からは、冒頭の事例はどういう結論になるだろうか?

神渡:冒頭の事例とは、「保険金を詐取する意図で、自動車追突事故を起こし、被害者の承諾を得て身体傷害を負わせた」という事例ですね。

玄人:そうだ。
なお、ここでは、有効な同意があったことにしておこう。
では、続けて。

神渡:「社会的相当性説」は、被害者の有効な同意があっても、行為が社会的に相当でない場合には違法性阻却を認めない見解です。この説からは、保険金を詐取するという社会的に相当ではない行為である上の事例では違法性阻却が認めらず、傷害罪で有罪となります。
全面不可罰説」は、法益主体の同意がある以上、法益の要保護性が失われるとして違法性阻却を認める見解です。この説からは、上の例で被害者に同意がある以上、傷害罪の違法性が阻却され、傷害罪は不成立となります。
生命危険説」は、生命に危険のある傷害については、パターナリズムの見地から、同意があっても違法性阻却を認めない見解です。この説からは、上の例で被害者の負傷が生命に危険のある程度であるか否かで結論が変わってきます。生命に危険のある傷害であれば、被害者の同意があっても違法性は阻却されませんから、この場合、傷害罪が成立します。生命に危険のない傷害であれば、被害者の同意により違法性が阻却されますから、傷害罪は不成立となります。
重傷害説」は、生命に危険のある傷害に加えて、身体の枢要部への不可逆的損傷を加える行為についても、被害者の同意があっても違法性阻却を認めないという見解です。この説からは、上の例で被害者の傷害が頭部などへの不可逆的な損傷などでなければ、被害者の同意により違法性阻却を認めますから傷害罪は成立しません。

神渡:(ふぅ、疲れた・・・)

玄人:そうなる。
では、これらの見解の対立は何に基づいているのだろう?

流相:「社会的相当性説」は、違法性論の規範違反説を、それ以外は法益侵害説を前提としています。

玄人:うん。法益侵害説を前提とする見解でも3説に分かれているが、その理由は分かるかな?

流相:「全面不可罰説」は被害者の自己決定権を重視する立場で、「生命危険説」と「重傷害説」はパターナリスティックな観点を考慮する立場だと思います。

玄人:そういうことになる。ちなみに、「パターナリスティック」な観点とは、父権的な観点という意味だ。親が子の判断に介入するというイメージだな。介入される側が未成熟であることを前提とする考えで、自己決定とは対立する考えだ。
では、被害者の自己決定権を重視する立場から学説を並べるとどうなる?

神渡 :はい。
(1)構成要件不該当説
(2)全面不可罰説
(3)生命危険説
(4)重傷害説
(5)社会的相当性説
の順になるかと思います。

玄人:そうだ。
でも、気をつけて欲しい点がある。(1)と(2)は、実はいずれも「被害者の同意」により常に犯罪が成立しないという点で一致しているんだ。ただ、「被害者の同意」の体系的位置付けが構成要件にあると考えると(1)、違法性阻却にあると考えると(2)になるだけなんだ。
これは、構成要件と違法性阻却との体系的関係をどう考えるかという点に違いがあるからなんだ。構成要件該当性判断の形式性を重視する見解は(2)を、構成要件該当性判断の実質性を重視する見解は(1)になる。「被害者の同意」について(1)と(2)の違いは実益に差をもたらさないが、構成要件該当性判断の形式性、実質性というのは刑法の「思考枠組」と密接な関係を有するから心に留めておいて欲しい。

では、次に、「錯誤に基づく同意」に移ろう。

・・・「被害者の同意(錯誤)」へ続く。

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